道路清掃業者11業者が名古屋市が発注する道路清掃業務の入札で談合するにあたって,有力市議に100万円を提供して名古屋市側に働きかけを依頼し,有力市議が名古屋市緑政土木局長らに道路清掃業者に便宜を図るよう圧力をかけ,局長及び道路部長が部下の課長に入札予定価格を漏洩するように指示し,課長が担当の係長に同様の指示をし,係長が道路清掃業者の窓口役に入札予定価格を漏洩したとして,名古屋地方検察庁特捜部が捜査にあたり,道路清掃業者11業者,有力市議,名古屋市職員4名(局長,部長,課長,係長)の合計16名を贈賄罪,あっせん収賄罪,競売入札妨害罪などで起訴した事件(肩書きはいずれも当時)。
清掃業者11業者,有力市議,名古屋市職員のうち課長,係長については罪を認めたために有罪判決が確定しています。
局長は,検察による任意の取調べに最大限協力していたにもかかわらず,平成15年11月4日突然取調べ中に逮捕されましたが,入札予定価格の漏洩を部下に指示したことも部下から報告を受けたことも一切なかったことから容疑を否認しました。当事務所の谷口和夫弁護士及び谷口典明弁護士は,局長の弁護人として捜査段階から弁護活動に従事することとなりました。局長は,逮捕後の取調べに対して否認を続けていましたが,いつ終わるとも知れない連日の長時間にわたる取調べの苦しさと早期保釈をエサに自白を迫る捜査検事の甘言に精根尽きて,ついに課長及び係長に入札予定価格の漏洩の報告を受けた旨の虚偽の自白をさせられました。
その後局長は,競売入札妨害罪で起訴された後第1回公判までに虚偽の自白を覆して,一貫して容疑を否認する部長と共に無罪を争うことを決意しましたが,特捜部の捜査による膨大な捜査資料に加え,やってもいないことを自白させられるという圧倒的不利な状況のもと,公判を迎えることとなりました。
公判における検察側の有罪立証の要は,平成13年4月の懸案事項レクと呼ばれる部内で行われるミーティングにおいて,清掃業者に対して入札予定価格を漏洩していることを報告し,了承を得たというかつての部下であり,先に有罪が確定した課長及び係長の証言でした。そして検察は,懸案事項レクとは,毎年年度初めに部内で懸案となっている事項について上司に報告して,上司の指示を仰ぐミーティングであると誤って理解していました。しかし弁護側が捜査資料や名古屋市に保管されていた資料を詳細に分析した結果,懸案事項レクとは毎年行われるものではなく,部長以上に人事異動があった際に,新任の上司に対して各課毎に懸案となっている事項について説明するミーティングであり,平成13年には緑政土木局において部長職以上の人事異動がなく,そもそも懸案事項レク自体行われていないことが判明したのです。このことを課長及び係長の証人尋問の前に明らかにすることができたため,平成13年には懸案事項レクが行われなかったという「動かぬ証拠」を突きつけられた課長及び係長はろうばいして証言を二転三転させる結果となり,その証言の信用性を崩すことに成功しました。
その後検察側は,平成13年に行われたのは「非公式」の懸案事項レクであったなどと主張を変えたり(これについては判決で「平成13年4月の懸案事項説明がなかったことが判明した事態に至って,検察官が正式でないものとして懸案事項説明が存在したと主張することは理解しがたい。」と,検察側の立証方針自体が批判されています。),ある証人についての供述調書を「これが全てである。」と言って開示しておきながら全て開示せず,後から開示していない供述調書を証拠請求する,清掃業者が有力市議に100万円を渡した時期について完全に矛盾する記載のある供述調書を両方証拠請求する,などなりふり構わぬ主張立証を始めましたが,その大半は裁判所の不興を買うだけに終わりました。
そして平成19年2月16日,清掃業者に入札予定価格の漏洩を指示したことも報告を受けたこともないとして,局長及び部長の両名とも無罪とする判決を頂きました。
検察側は判決に対して控訴しましたが,検察側が控訴審において新たに請求した証拠の大半は証拠として採用されず,平成20年11月21日,原審の判決内容をほぼ完全に追認する内容で無罪判決が維持されました。
このようにして,逮捕から約5年の苦しい戦いの末,完全無罪という金星を勝ち取ることができた一方,検察は捜査段階で描いた「政官業の癒着」の構図を完全に否定された上,特捜案件において原審,控訴審ともに無罪という歴史的敗北を喫することになりました。